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    02 September

    うどんげ日記外伝 因幡てゐ 「近親相姦の恐れ有り 3」

    うどんげ日記外伝 因幡てゐ

    ○月×日△曜日

    お久しぶりです、夜ふかしです。
    本当にお久しぶりで困ります。

    そんなお久しぶりな方々には、この日記が日記等と言う代物ではないと言う事はもはや言わずともアレな感じだと思うのだけれど、そんな事も問題ではなく。

    つまる所、書いている本人があまりに放置したもので前回までの展開を完全に頭からスローイングしてしまった上に読み直すのも面倒なので・・・まぁアレだ。


    今日も永遠亭は平和なのでした。

    てゐ様から部屋をあてがわれた僕はおおよそ生まれて初めて感じるのではないかと思うほどに快適なベッドの上で目を覚ました。

    それはそれはとても快適であった訳で、ちんこも朝から元気にいきり立つと言う物である。

    失礼。

    (久しぶりすぎて感覚が戻ってこない。許して欲しい。)

    そうして目覚めた朝だか昼だかのまどろみを堪能しつつ、昨夜はゆっくりと眺める事も出来なかった室内を改めてみた。


    ・・・何もない部屋。

    飾り気どころか時計も鏡も机も何も無い。

    おおよそ誰かが使っていた形跡など何処にも無く、ここが空き部屋であった事は明白だった。

    しかしそれにしてはおかしい。

    妙な違和感を感じる。

    その違和感が何なのかは、その時の僕には解らなかったのだが。


    そうしているうちに餅つきの事を思い出した。

    しまった。

    朝の餅つきに遅れてしまうとマズイ。

    いったい今が何時なのかハッキリとしないが、とにかく僕は道具小屋へと急いだ。

    頭の中では左右どちらに避けるべきかと対てゐ様戦のデモンストレーションを繰り返しながら・・・。


    「おぅおぅ、今日は少し遅かったじゃないか」

    すっすみまぜっと息を切らせながら道具小屋に辿り着いた僕に、てゐ様は木槌を振り下ろさなかった。

    「いいよいいよ、いいから道具は自分で用意するんだよ」

    はいすみませんっ!当然でございますっ!

    仮にも餅つき班長の名をいただいたのである。

    いつまでもてゐ様の手を煩わせている訳にはいかない。

    僕はせっせと道具小屋へ入ると―――――――。


    ギィバタン。


    小屋の扉が閉まった。

    ギクリとして振り返ると、まぁこのパターンで行けば鍵を閉められて閉じ込められてと言うのを想像するものだ。それが道理と言う物だ。

    少し違う気もするが。

    ともあれ鍵は閉められて、僕は閉じ込められた事になったのだろう。

    つまりそれは危機的状況に陥ったと言う事で。

    危機的状況ならばそれを打開したい所だ。

    ここで問題になってくるのは僕が置かれた危機的状況とは何かと言う事であり、今の僕にとってそれは臼や杵の並んだ薄暗い道具小屋に閉じ込められた事では無く、ましてや朝食を口にする事が出来なかったが為に腹が減ってきた事でも無い。

    「・・・てゐ様?」

    そうだ。

    閉じ込められたはずの僕の目の前に、彼女がいる事っ!!

    なんだなんだなんだっ!?

    何が起こった!!

    落ち着け落ち着け僕っ!!

    そうだそうだ。

    閉じ込められた事に変わりは無いのだから何も焦る事なんて少ししか無いはずっ!!

    なのにどうだこの心臓が刻んでいるのであろう激しいビートっ!!

    ああそんなに丁寧に内側から鍵を掛けないでください。

    少しばかり寝坊した事はこの通りっ!!

    頭が火を噴くまで地面に擦り付けて謝りますからどうかっ!!

    そんな僕の願いも儚く彼女はゆっくりと、まるでスローモーションの様にこちらを振り向く。

    これが死を目前にした感覚なのか。

    ゆっくりとゆっくりと近付く、僕の大好きなお姉さん兎。

    ああ、短い因幡としての生だった。

    彼女は僕に密着するまでに近付いて囁いた。

    ああ死神が見える、死んだらまた白玉楼へ行けるかな。

    「・・・しようか」

    言葉の意味が良く分からないが、死の宣告を受けた様なショックだけは間違いのない物だった。

    てゐ様は僕を突き飛ばすとお腹の辺りに馬乗りになって・・・って何だそりゃっ!?

    「ちょ・・・てゐ様違うっ!!」

    一体何が違うと言うのか。

    もう何が起きているのか解らない事が多すぎる。

    とにかく僕は抗議の声を上げようと必死で言葉を探してみたが、それすらも難しい状況に陥ってしまった。

    聞こえてくるのは二人(二匹?)の吐息と自らの心臓が破裂寸前の危機を伝えるSOSばかり。

    微動だにすれば唇が触れてしまうのでは無いかと思える様な至近距離に、彼女の顔があった。

    瞳の紅から逃れる術は無く、彼女の吐息は僕の脳ミソを直接こね回すかの様に襲い掛かり、まるで逃さんとばかりに絡めとろうと言うのか、ウェーブのかかったその髪が頬をくすぐる。

    そしてそれは、まるでヒソヒソと言う擬音をつける為に生み出された言葉であるかの様に、至極当然の事の様に彼女の唇が紡ぎ出す。

    「ねぇ、してよ」

    この時僕は、恥ずかしい話なのだけれど、何も考えていなかった。

    何も考えられなくなっていた。

    頭がボーっとして、ただ彼女の甘い香りと、腹部に感じる彼女の温度が、僕の下腹部に熱を送っていた。

    「好きにしていいから・・・」

    彼女はそのまま僕の肩口に顔を埋めると、これまた小さな声で囁いた。首筋に唇の感触を感じる・・・。

    「私じゃ・・・だめなの・・・?」

    卑怯だ・・・。

    とんでもなく卑怯で、誘惑的だった。

    「こんな体だから・・・興奮しない?」

    その時初めて気づいた。

    彼女の声が・・・震えている。

    僕は愚かだった。

    あたりまえじゃないか、こんな事。

    どんな気持ちで言える台詞だろうか。

    どれほど彼女が勇気を振り絞り、紡ぎ出している言葉だったろうか。

    気づけば肩も震えていた。

    ・・・怖いのだ。

    ここまでしても受け入れられなかった時の恐怖。

    それを考えたら普通は躊躇してしまうだろう、しかし彼女はやってのけたのだ。

    今度は僕の番だ。

    てゐ様は僕の大切な、憧れのお姉さん。

    それをきちんと伝えなければいけない。


    彼女の肩を掴んで引き離すと、真っ赤な両の目から大粒の涙がこぼれた。

    グサグサと心臓が刺される様な感覚・・・。

    でもダメだ。

    彼女は逃げなかったんだから。

    「てゐ様、僕は・・・」

    とその時。

    バガン!!と小屋の扉が開け放たれた。

    真っ赤な瞳。

    歪な兎の耳。

    「?!」

    そういえば挨拶もろくにしていないのだったなぁとは、我ながら場違いな感想だったと思う。

    てゐ様の話にも聞いた例の・・・。

    「・・・・・・鈴仙」

    てゐ様は僕から飛び退くと彼女の前に立ち、さも苛立たしげに言った。

    「何のつもりだよ・・・」

    「・・・・・・」

    「あんたは・・・また私から奪おうって言うの?」

    「・・・・・・」

    「そうやっていつもあんたが・・・っ!!」

    「・・・・・・」

    ギリギリと歯軋りの音すら聞こえて来そうなほどに、憎悪のこもった呪詛・・・。

    僕は、言葉を発する事も出来なかった。

    見た事も無い表情・・・。

    憎しみとか悲しみとか、そう言った言葉で表せる様なものでは無かった。

    酷く・・・辛そうで、歪な表情・・・。

    結局てゐ様はそのまま何処かへ跳ねて行ってしまい、鈴仙様もこれまた何処かへ。

    置いてけぼりを食らった僕は仕方なく、一人トボトボと部屋へ帰ってさっさと寝よう寝るべきだと思い、自室のドアに手をかけ・・・。

    「あら、その部屋はダメよ」

    彼女に出会った。

    「その部屋はもう使っているのがいるわ、それにあなた見ない顔ね」

    八意永琳。

    今思えば、この日はとんでもない方に立て続けに会い過ぎていたしとんでもない目にも会っていたし散々だった。

    僕はこの時、彼女の事を良く知なかったと言うのもあったがずけずけとよくもまぁ、てゐ様からあてがわれた部屋なのだと説明できたものだ。

    ああそうなの、ならいいのかしらねぇと八意様。

    その後に聞いた台詞は、どうしたら良いものかと未だに僕を悩ませる事になるのだが。


    「その部屋ね、てゐの部屋なのよ」

    「え・・・」


    話を聞けば、この永遠亭の屋敷自体は元々てゐ様が因幡達と共に造り上げた物なのだそうだ。

    そこに今では姫様や八意様、鈴仙様や他の因幡達も住まわせてもらっているらしい。

    所が当の本人であるてゐ様は屋敷に居ようとはせず、もっぱら竹林で生活している事の方が多いらしいのだ。

    流石に持ち主であるてゐ様を蔑ろにする訳にはいかず、いつ戻ってきても大丈夫な様に、部屋だけは綺麗に掃除しているのだとか。

    そう、僕が部屋で目覚めた時に感じた違和感はそれだった。

    誰も使っていないはずの部屋なのに、綺麗なままで保たれていたし、ベッドもすぐに使えるようにきちんと整えられていた。

    この部屋は、本当はてゐ様の居場所なのだ・・・。


    とまぁ今回の話はここでおしまいなのだが、永遠亭の永遠っぷりは今現在も尚延々と続いている。

    歪な時間を過ごした歪な住人達の、歪な物語。

    歪な存在ゆえの歪な求愛行動も、そんな永遠亭なら許されても良いのではないだろうか。


            と、そこまでは割り切れない餅つき班班長。


                おしまい