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うどんげ日記presented by Happy Drive! September 02 うどんげ日記外伝 因幡てゐ 「近親相姦の恐れ有り 3」うどんげ日記外伝 因幡てゐ ○月×日△曜日 お久しぶりです、夜ふかしです。 本当にお久しぶりで困ります。 そんなお久しぶりな方々には、この日記が日記等と言う代物ではないと言う事はもはや言わずともアレな感じだと思うのだけれど、そんな事も問題ではなく。 つまる所、書いている本人があまりに放置したもので前回までの展開を完全に頭からスローイングしてしまった上に読み直すのも面倒なので・・・まぁアレだ。 今日も永遠亭は平和なのでした。 てゐ様から部屋をあてがわれた僕はおおよそ生まれて初めて感じるのではないかと思うほどに快適なベッドの上で目を覚ました。 それはそれはとても快適であった訳で、ちんこも朝から元気にいきり立つと言う物である。 失礼。 (久しぶりすぎて感覚が戻ってこない。許して欲しい。) そうして目覚めた朝だか昼だかのまどろみを堪能しつつ、昨夜はゆっくりと眺める事も出来なかった室内を改めてみた。 ・・・何もない部屋。 飾り気どころか時計も鏡も机も何も無い。 おおよそ誰かが使っていた形跡など何処にも無く、ここが空き部屋であった事は明白だった。 しかしそれにしてはおかしい。 妙な違和感を感じる。 その違和感が何なのかは、その時の僕には解らなかったのだが。 そうしているうちに餅つきの事を思い出した。 しまった。 朝の餅つきに遅れてしまうとマズイ。 いったい今が何時なのかハッキリとしないが、とにかく僕は道具小屋へと急いだ。 頭の中では左右どちらに避けるべきかと対てゐ様戦のデモンストレーションを繰り返しながら・・・。 「おぅおぅ、今日は少し遅かったじゃないか」 すっすみまぜっと息を切らせながら道具小屋に辿り着いた僕に、てゐ様は木槌を振り下ろさなかった。 「いいよいいよ、いいから道具は自分で用意するんだよ」 はいすみませんっ!当然でございますっ! 仮にも餅つき班長の名をいただいたのである。 いつまでもてゐ様の手を煩わせている訳にはいかない。 僕はせっせと道具小屋へ入ると―――――――。 ギィバタン。 小屋の扉が閉まった。 ギクリとして振り返ると、まぁこのパターンで行けば鍵を閉められて閉じ込められてと言うのを想像するものだ。それが道理と言う物だ。 少し違う気もするが。 ともあれ鍵は閉められて、僕は閉じ込められた事になったのだろう。 つまりそれは危機的状況に陥ったと言う事で。 危機的状況ならばそれを打開したい所だ。 ここで問題になってくるのは僕が置かれた危機的状況とは何かと言う事であり、今の僕にとってそれは臼や杵の並んだ薄暗い道具小屋に閉じ込められた事では無く、ましてや朝食を口にする事が出来なかったが為に腹が減ってきた事でも無い。 「・・・てゐ様?」 そうだ。 閉じ込められたはずの僕の目の前に、彼女がいる事っ!! なんだなんだなんだっ!? 何が起こった!! 落ち着け落ち着け僕っ!! そうだそうだ。 閉じ込められた事に変わりは無いのだから何も焦る事なんて少ししか無いはずっ!! なのにどうだこの心臓が刻んでいるのであろう激しいビートっ!! ああそんなに丁寧に内側から鍵を掛けないでください。 少しばかり寝坊した事はこの通りっ!! 頭が火を噴くまで地面に擦り付けて謝りますからどうかっ!! そんな僕の願いも儚く彼女はゆっくりと、まるでスローモーションの様にこちらを振り向く。 これが死を目前にした感覚なのか。 ゆっくりとゆっくりと近付く、僕の大好きなお姉さん兎。 ああ、短い因幡としての生だった。 彼女は僕に密着するまでに近付いて囁いた。 ああ死神が見える、死んだらまた白玉楼へ行けるかな。 「・・・しようか」 言葉の意味が良く分からないが、死の宣告を受けた様なショックだけは間違いのない物だった。 てゐ様は僕を突き飛ばすとお腹の辺りに馬乗りになって・・・って何だそりゃっ!? 「ちょ・・・てゐ様違うっ!!」 一体何が違うと言うのか。 もう何が起きているのか解らない事が多すぎる。 とにかく僕は抗議の声を上げようと必死で言葉を探してみたが、それすらも難しい状況に陥ってしまった。 聞こえてくるのは二人(二匹?)の吐息と自らの心臓が破裂寸前の危機を伝えるSOSばかり。 微動だにすれば唇が触れてしまうのでは無いかと思える様な至近距離に、彼女の顔があった。 瞳の紅から逃れる術は無く、彼女の吐息は僕の脳ミソを直接こね回すかの様に襲い掛かり、まるで逃さんとばかりに絡めとろうと言うのか、ウェーブのかかったその髪が頬をくすぐる。 そしてそれは、まるでヒソヒソと言う擬音をつける為に生み出された言葉であるかの様に、至極当然の事の様に彼女の唇が紡ぎ出す。 「ねぇ、してよ」 この時僕は、恥ずかしい話なのだけれど、何も考えていなかった。 何も考えられなくなっていた。 頭がボーっとして、ただ彼女の甘い香りと、腹部に感じる彼女の温度が、僕の下腹部に熱を送っていた。 「好きにしていいから・・・」 彼女はそのまま僕の肩口に顔を埋めると、これまた小さな声で囁いた。首筋に唇の感触を感じる・・・。 「私じゃ・・・だめなの・・・?」 卑怯だ・・・。 とんでもなく卑怯で、誘惑的だった。 「こんな体だから・・・興奮しない?」 その時初めて気づいた。 彼女の声が・・・震えている。 僕は愚かだった。 あたりまえじゃないか、こんな事。 どんな気持ちで言える台詞だろうか。 どれほど彼女が勇気を振り絞り、紡ぎ出している言葉だったろうか。 気づけば肩も震えていた。 ・・・怖いのだ。 ここまでしても受け入れられなかった時の恐怖。 それを考えたら普通は躊躇してしまうだろう、しかし彼女はやってのけたのだ。 今度は僕の番だ。 てゐ様は僕の大切な、憧れのお姉さん。 それをきちんと伝えなければいけない。 彼女の肩を掴んで引き離すと、真っ赤な両の目から大粒の涙がこぼれた。 グサグサと心臓が刺される様な感覚・・・。 でもダメだ。 彼女は逃げなかったんだから。 「てゐ様、僕は・・・」 とその時。 バガン!!と小屋の扉が開け放たれた。 真っ赤な瞳。 歪な兎の耳。 「?!」 そういえば挨拶もろくにしていないのだったなぁとは、我ながら場違いな感想だったと思う。 てゐ様の話にも聞いた例の・・・。 「・・・・・・鈴仙」 てゐ様は僕から飛び退くと彼女の前に立ち、さも苛立たしげに言った。 「何のつもりだよ・・・」 「・・・・・・」 「あんたは・・・また私から奪おうって言うの?」 「・・・・・・」 「そうやっていつもあんたが・・・っ!!」 「・・・・・・」 ギリギリと歯軋りの音すら聞こえて来そうなほどに、憎悪のこもった呪詛・・・。 僕は、言葉を発する事も出来なかった。 見た事も無い表情・・・。 憎しみとか悲しみとか、そう言った言葉で表せる様なものでは無かった。 酷く・・・辛そうで、歪な表情・・・。 結局てゐ様はそのまま何処かへ跳ねて行ってしまい、鈴仙様もこれまた何処かへ。 置いてけぼりを食らった僕は仕方なく、一人トボトボと部屋へ帰ってさっさと寝よう寝るべきだと思い、自室のドアに手をかけ・・・。 「あら、その部屋はダメよ」 彼女に出会った。 「その部屋はもう使っているのがいるわ、それにあなた見ない顔ね」 八意永琳。 今思えば、この日はとんでもない方に立て続けに会い過ぎていたしとんでもない目にも会っていたし散々だった。 僕はこの時、彼女の事を良く知なかったと言うのもあったがずけずけとよくもまぁ、てゐ様からあてがわれた部屋なのだと説明できたものだ。 ああそうなの、ならいいのかしらねぇと八意様。 その後に聞いた台詞は、どうしたら良いものかと未だに僕を悩ませる事になるのだが。 「その部屋ね、てゐの部屋なのよ」 「え・・・」 話を聞けば、この永遠亭の屋敷自体は元々てゐ様が因幡達と共に造り上げた物なのだそうだ。 そこに今では姫様や八意様、鈴仙様や他の因幡達も住まわせてもらっているらしい。 所が当の本人であるてゐ様は屋敷に居ようとはせず、もっぱら竹林で生活している事の方が多いらしいのだ。 流石に持ち主であるてゐ様を蔑ろにする訳にはいかず、いつ戻ってきても大丈夫な様に、部屋だけは綺麗に掃除しているのだとか。 そう、僕が部屋で目覚めた時に感じた違和感はそれだった。 誰も使っていないはずの部屋なのに、綺麗なままで保たれていたし、ベッドもすぐに使えるようにきちんと整えられていた。 この部屋は、本当はてゐ様の居場所なのだ・・・。 とまぁ今回の話はここでおしまいなのだが、永遠亭の永遠っぷりは今現在も尚延々と続いている。 歪な時間を過ごした歪な住人達の、歪な物語。 歪な存在ゆえの歪な求愛行動も、そんな永遠亭なら許されても良いのではないだろうか。 と、そこまでは割り切れない餅つき班班長。 おしまい April 12 うどんげ日記外伝 因幡てゐ 「近親相姦の恐れ有り 2」○月×日△曜日
班長になってから、毎日餅を付く僕がいた。
「なかなか上手じゃない、天職なんじゃん?」
僕の隣りでへらへらと笑う彼女も、もう見慣れた光景である。
毎日来てくれるのは嬉しいのだが。
「他にする事ないんですか?」
僕より彼女の方が暇そうだった。
「あー何?やっぱり見られているとやりにくいかい」
まぁ上司に毎日見張られてちゃアレだよね~。
と腐る彼女。
相変わらずへらへらと笑っているが、これは失言だっただろうか。
そうではない、僕の面倒で彼女に迷惑がかかってしまうのが嫌だったのだ。
僕としては毎日彼女に会える事は嬉しい。
退屈しなくてすむし、何より一人ぼっちになるのは不安だ。
そんな不安も彼女が会いに来てくれるだけで何処かに消えてしまうのだから、今の僕にとって、彼女の存在は無くてはならないものだと言える。
「側に居てもらえもらえるのは助かります」
「ふふーん、そうだろうそうだろう素直が一番だよ」
さも嬉しそうにニコニコと笑う彼女を見ていると、妖怪である事を忘れてしまいそうになる。
まぁ、妖怪だろうが何だろうがそんな事は大して問題にはならない。
この幻想郷では特にだ。
それに、この兎少女が僕にとって大切な存在である事も事実である。
それだけで十分だ。
そうやって、いくらか餅を付いた頃である。
遠くから視線を感じて手を止める。
辺りを見回すと探すまでもなく、その存在は見つかった。
かなり遠く表情は伺えないが、頭に生えた兎の耳らしきものと真っ赤な瞳が目立つ。
身の丈は僕と同じか少し高いくらいだろうか。
他の兎とは違う人の姿をしたそれは、兎少女の話に出てきた人物で間違いないだろう。
「あの人・・・さっきからこっちを見てる」
「ん、ああ、気付いてるもんだと思ってたけど」
あんたここ数日はずっと見られてたよと僕のすぐ隣りまで来て言う彼女。
「あれは鈴仙、こないだ話した月の兎ね、何やってんだろうねー」
何故かニヤニヤとしながら言う彼女に疑問を抱きつつも、僕はあの人物に興味を引かれていた。
「鈴仙・・・」
「あー、一応だけど様を付けた方がいいね、ここの因幡達の中では一番偉い事になってるから」
頭をボリボリと掻きながら面倒くさそうに教えてくれた。
「鈴仙・・・様・・・」
「・・・・・・なに、気になるの?」
そりゃああんな遠くからでも見られていたら気になるだろう。
この距離では挨拶もできないし、はてどうしたもんかと思い始めた頃には、既に鈴仙様の姿は無かった。
「まぁ危険なヤツじゃないから、気にしなくても大丈夫だよ」
見た目は色んな意味で危ないけどね、と付け足す彼女。
「そんじゃまた明日、サボってたら殺すからねー」
ばいばいと手を振って彼女も行ってしまった。
僕はと言えば先程の、鈴仙様の事が気になってしょうがなかったのだが。
まぁこの永遠亭に居ればまた会えるだろうと思い、寝る事にした。
「ああしまった」
今日も寝る場所を訊くのを忘れてしまった。
○月×日△曜日 いつもの様に道具小屋で目覚めた僕はいつもの様に臼と杵を運びだし、餅をついていた。
道具や材料の場所はもう覚えたので一人でも餅はつける。
のでせっせと餅をつくが、やはり彼女が来るのを期待している僕がいた。
しばらく餅をついていると期待通りに彼女は現れたのだが。
「やあやあ、真面目に仕事をしてるじゃないか、関心関心」
うんうんと一人で頷いているが、おかしい。
「今日は襲って来ないんですね?」
「ん、何言ってんのさ、普通は女の子が襲われるもんだよ」
いやそうじゃなくて、まぁ毎日死ぬ目に合うのもどうかと思うし、たまには普通な日があっても良いだろう。
そうだ、それよりも尋ねたい事が幾つかあるのだった。
「あー、えーと、稲葉様ちょっと尋ね・・・」
「何それ、鈴仙様みたい、やめてよ」
む、呼び方の事だろうか。
「いや、でも・・・」
「やめて」
っ!?
予想外に強い調子で言われたのでちょっと驚いてしまった・・・。
そんなに失礼な事だったのだろうか・・・。
「てゐで良いよ、普通にさ」
「じゃあ、てゐ様」
「んーあー、まぁいいか、で何だっけ?」
納得いったのかそうでないのか、とりあえずは笑ってくれたので良かったのだろう。
そして僕はついに切り出した。
ここへ来てからずっと、僕にとって最大の問題となっている事。
「僕の寝る場所どこすか」
かくして、餅つき班長の部屋はあてがわれた。
てゐ様は目を丸くして驚くと、一瞬の後に爆笑していた。
違う、ここは笑う所ではない。
まぁ普通に部屋をくれたのだが、冗談でも一緒の部屋で寝ようとか言ってくれなかったのは残念な様な気がしないでもない。
そう言えば、てゐ様は一体どこで寝ているのだろうか。
部屋がわかっていれば何かと不便が無くて良い。
今度会ったら訊いてみようと適当に考えながら。
自分の部屋をゆっくりと見回すことも無く、僕は眠りに落ちていった。
おやすみなさーい。
April 10 うどんげ日記外伝 因幡てゐ 「近親相姦の恐れ有り 1」ウドンゲ日記外伝 因幡てゐ
「近親相姦の恐れ有り 1」
○月×日△曜日 永遠亭。
竹林の奥にコッソリと佇む、永遠と言う結界に守られた月の民と兎の楽園。
僕はこの日記を書いている冥界の因幡である。
冥界のと言っても至って普通の因幡なので幽霊ではない。
ましてや半霊でもなければ妖怪でもなく、色々とあって冥界にあるお屋敷で庭師をやっていただけと言う話だ。
更にはそれも過去の事であって、今ではこれまた色々とあり、この永遠亭で餅をつかせてもらっていると言う訳なのだ。
これは、僕が永遠亭で餅をつき始める前のお話し。
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その日も僕には仕事が無かった。 冥界にいた頃は亡霊のお嬢様にからかわれたり庭師の少女と稽古をしたり、他にも騒霊三姉妹とお喋りしたりとそれなりに退屈の無い毎日を送っていた僕にとって、この永遠とも思える退屈な日々は、まるで竹林の毒なのではないかとも思える程に僕の心を焦らせていた。
とは言ってもここは人里離れた竹林の更に奥。
目に付くのは冥界にあるそれ程ではないが、広い敷地を持ったお屋敷と兎の姿ばかりだ。
仕事は無いかと尋ねたいがまさか兎に言葉が通じる訳も無く、僕はただ流れるだけの時間を、ただ流れるだけのままに、ブラブラと過ごすしか出来ない。
ヒマである。
○月×日△曜日
ヒマである。
もうここへ来てかれこれ10日は経つだろうか。もっと経ったかも。
特に何が起こる訳でもなく、僕はやっぱりブラブラしていた。
ブラブラついでにこの永遠亭を探検してみたりしたのだが、特に何も無い。
唯一気になった事と言えばこれは不思議な話なのだが、永遠亭を外からぐるりと一周した際に掛かる時間と、永遠亭内の廊下をぐるりと回って一周した際の時間が大きく異なるのだ。
通常、内側を周る様にすればその時間は短縮されるはずである。
だがおかしな事に、廊下を歩いて一周するとその時間は外を周った時の2倍以上は掛かってしまうのだ。
まぁそれも、不思議な建物だなと思うだけで理由なぞわかる訳もなく、考えるだけ無駄に終わってしまうので残念な事に暇つぶしにはならなかった。
兎に訊く訳にもいかんしなぁ等と呟きながらブラつく僕の前に、それは唐突に姿を現した。
お屋敷から少し離れた所にある大き目の小屋。
中から現れた小柄な少女。
少女には耳が生えていた。
兎の耳。
真っ白な肌に真っ白なワンピース、それと対にするかの様な黒い髪、真っ赤な瞳。
そうだあの時。
僕が冥界から突き落とされて竹林に迷いこんだあの日。
僕を永遠亭に連れてきた少女。
あれから姿を見ていなかったが、やっぱりここにいたのだ。
「あ」
「あ」
まぁお互いになんとも間抜けな一言目だったと思う。
正に運命の再開であった。
○月×日△曜日 ヒマである。
あれから一月は経っただろうか。
ヒマである事に変わりは無いが、退屈では無くなった。
なぜかと言えば・・・。
「おーいおーい」
遥か彼方から物凄い勢いで接近してくる声っ!!
スピード感など微塵も感じさせない様な暢気な口調だが、一切の油断は禁物だっ!!
なぜなら一瞬でも回避が遅れれば死んでしまうからっ!!!!
「かわしてみせる・・・っ!!」
もうこれで何度目になるか良く解らないが、それだけ経験を積んできたんだ。
今日は右か、左か・・・っ?!
「やぁやぁ今日もヒマそうじゃないか」
「ええ、ここには退屈がっ――――――――」
真正面っ!!
これは一番多いパターンっ!!見切ったっ!!
「ありませんから」
ドコーンと派手な音を立てて振り下ろされたのは彼女の倍はあろうかと言う程の大きな槌。
僕は左に一歩、チョン避けする事で回避に成功した。
「ふふん、大分慣れてきたみたいじゃないか」
「そりゃあ、こうも毎日叩かれれば慣れますよ・・・」
この日記を読んでいる方はすでにお気付きだと思うが、彼女こそ永遠亭のミョルニール「因幡てゐ」様である。
元は普通の因幡だったそうだが健康すぎて妖怪になったらしい。良く解らない。
身長は10代前半の少女程しか無いが、妖怪特有の怪力と獣の素早さから繰り出される一撃にはスキンシップと呼ぶには程遠い即死感が漂っている。
「いやいやしかし、あんた毎日何してるの?どこに配属されたのさ」
「貴女こそ、よくも毎日飽きずに殺そうとできるものですねぇ」
僕をこの永遠亭に連れてきたのは因幡てゐ様なのだが、その場で放置されたりなんだりかんだりで、そも全てに置いて何も解らない。
そんな事を言って述べると彼女は大層驚いていた。
「ここは外から入って来るモノに関してはかなり厳しいんだよ」
誰にも会わずに良く生きていられたもんだねぇとニコニコしながら凄い事を言っている。
生きているのが不思議だとでも言わんばかりだ。
僕は面白い冗談を聞いたつもりになって自分をごまかした。へへ。
「つまり何処にも配属されて無い訳かぁ・・・」
と口元に指をあてて悩んだフリをする彼女。
暫しの沈黙から、僕にありがたい命令が下った。
「よし、あんたは今日から私の部下、餅つき班の班長ね」
「はーい」
いや僕だって流石に「はーい」は無いだろうと思うよwww
○月×日△曜日
何もかもが変化を遂げた。
兎少女は訊けば何でも教えてくれた。
永遠亭の事、そこに住む兎達の事、兎達と一緒に住んでいる彼女よりも更に強大な力を持つ人物達の事。
訊けば何でも教えてくれるが、自分から訊かないと何も教えてはくれなかったが。
そして僕には仕事が与えれられた。
餅つき班の班長としての仕事。
まだここへ来て数ヶ月と経たない僕がいきなり班長と言うのはどうかと思ったが。
「ああ、ここには人語を理解できる兎が他にいないからね、まぁいいじゃん」
だそうだ。
ここの偉い人たちは人語を使うので兎達と会話する事が出来ないと言う。
兎達と会話できるのは、この兎少女ただ一人・・・。
別に文句も無いが、良くそれで混乱が起きないなぁと思う。
僕の見た所千は裕に越えているであろう兎達も、彼女に言わせると万は軽く越えているとか。
食費だけでも相当な出費のはずだ。
どうやって運営しているのか今度詳しく訊いてみようと思う。
「で、姫様とその下に就いてる方がここのトップ2、その下にもう一人いて、更に下ると私がいる訳さ」
例の小屋から臼と杵を担ぎ、彼女が出てきた。
この小柄な身体でそれらを軽々と担ぐのもどうかと思うが・・・。
そんな彼女よりも更にインパクトのある存在が3人(?)も居ると言う事か。
「はい、これがあんたの仕事」
よっこらせと僕の目の前に置かれた臼と、差し出される杵。
迷う事無く受け取ったそれを握り締めた瞬間、その杵が僕の手に吸い付く様な感覚を受けた。
まるで僕がここへ来たのは運命なのではないかと思える程、僕の体の一部なのではないかと思える程。
いや、その時すでに、確実にその道具達は。
僕の一部となった。
永遠亭餅つき班第256番班班長の誕生である。 April 08 うどんげ日記 ご ~前編~あ、どうも夜ふかしです。 最近日記を書いていなかったのですが、サボっていた訳ではないのです。 実は休暇をもらって白玉楼へ行っていましたのですよ。 数ヶ月前、僕がまだ永遠亭で餅をつき始める以前の事。 僕は冥界にあるお屋敷で庭師をやっていました。 そのお屋敷が白玉楼な訳なのですが、見目麗しいお嬢様と堅苦しい庭師がいてまぁまぁ楽しく毎日を過ごしていた訳なのですよ。 ところがこの庭師があまりにも庭師なので、僕が庭師をやる必要が無かったのですね。 まぁ本来生きた人間がいてはいけないらしいので、結界が緩んだ隙に地上へ放られて、竹林を彷徨っていた所にてゐ様が現れて・・・と言う感じで、現在は永遠亭で餅つきをしているという訳なのでした。 そんな僕がたまに長期の休暇をもらっても行く場所なんか無い訳で、久しぶりに挨拶をしてこようかなぁと、まぁあそこのお嬢様は僕の事なんか覚えていないだろうけれど。 と言うのも、あそこのお嬢様は朝食べた物を昼食までに覚えていられない程の頭脳の持ち主なのだ。 よくそんなので主が務まるなぁと思うかもしれないが、あそこには亡霊しかいないので問題ないのだそうだ。 ひょっとしたら庭師の人は僕の事を覚えているかもしれないし、元より目的など無いに等しいのだから、忘れられていたらすぐに帰ってくれば良いだけの事。 と、そんな考え方が通用する様な相手ではないと言う事に、以前の僕なら考えるまでも無く気づいていただろうに・・・。 季節は冬――――― 当時は春真っ盛りで、冥界にまでちょっと異常なくらい桜の花弁が踊り狂っていた。 この道を通るのも久しぶりだ。 死に近づく感じ。 けれども寂しさは微塵も無く、耳には騒がしい程の演奏が聞こえてくる。 見ずとも解る見事な演奏は、冥界が誇る騒霊三姉妹のものだ。 きっと練習でもしているのだろう。 邪魔をしては悪いとも思ったが、僕が近づくと向こうから挨拶してくれた。 「あら、珍しいお客さんねぇ~、一発やってく~?」 自らのシンボルであるトランペットから口を離し、何とも言えない絡みにくさを身に纏った彼女がやってくる。 どうも、と片手を上げる僕。 どうやら覚えていてくれたらしい。 このやたらとテンションの高いお嬢さんはメルラン・プリズムリバー。 騒霊楽団のトランペッターだ。 見た目は普通の人間と変わらないが、彼女達騒霊楽団は幽霊である。 正確には幽霊とは別の存在らしいけど、似た様なものだろうと思うので深く追求する事もないだろう。 「久しぶりじゃない、どうしたの?死んじゃった~?」 あははと笑いながら握手を求める彼女に僕も握手で答える。 他の二人も遠間から挨拶をしてくれた。 意外かもしれないが、僕は騒霊三姉妹とは仲が良い。 と言うのも、このメルランは三姉妹の中でもズバ抜けて明るい性格をしており、誰とでもすぐに仲良くなってしまうのだ。 この性格が騒霊楽団の人気に一役買っているのは確かだろうと思う。 僕もなんだかんだで、うやむやの内に仲良しと言う訳だ。 ただ僕には問題があった。 「今なら練習中だから、騒霊ライブを独り占めできちゃうわよ~?」 「折角だけど、遠慮しとくよ、僕はほらアレだから」 そう、僕は彼女達とは違って生身の人間だ。 性格には生身の因幡だけど、彼女達の演奏は精神に大きな影響を与えてしまう。 それは勿論良い事ばかりでなく、時には発狂してしまう事さえある危険な演奏になるのだ。 そんな僕は間近で彼女達の演奏を聴く事が出来ない。 人気の騒霊ライブ独り占めは魅力的ではあったが、その後の事を考えたら喜んでばかりもいられない。 非常に残念である。 そっかぁ~、と少し残念そうに俯いて笑うメルラン。 その姿は暴力と言っても過言ではない程に相手を引きつける。 薄く青み掛かった髪は彼女の動作に合わせて輝くように揺らめき、その度に甘い香りを漂わせる。 小さな唇は幽霊だと言うのに瑞々しく、その澄んだ明るい声を発するだけで視線を釘付けにする。 更にこれは幽霊の特徴だろうか、真っ白な肌にこれまた純白の衣装を纏い、眩しい事この上ない。 他の二人も魅力的である事に違いはないが、メルランに至っては幽霊と言うより悪魔と言った方がしっくりくる。 そんな事を言ったらどこぞにいる悪魔のお嬢様に殺されてしまいそうだが、実際こうして傍にいるだけで眩暈がしてくる。 「魔性の女」と呼ぶのがこれほど相応しい相手もいない。 「じゃあ死んでからのお楽しみだね~」 「そうだね、その時は宜しくお願いしますよ」 うふふあははと笑いながら僕の腕に手を回して擦り寄ってくるメルラン。 「私が殺してあげてもいいんだけどぉ~・・・」 上目づかいでケタケタと笑うなっ!! これだから幽霊は嫌なんだ。 しかも冗談が通用しない。 こう言う誘いはキッパリと断らないと本当に殺されてしまうから、みんなも注意だぞっ! 幽霊との会話は心を強く持って意思をハッキリと伝える事が大事だ。 間違っても冗談なんか言ってはいけない。 まぁ彼女になら殺されても良いと言う人もいるかもしれないが。 ともあれ殺される為にノコノコとやってきた訳ではないので、手早く挨拶を済ませた僕は足早に白玉楼へと向かったのであった。 別れ際に振り返ってみたが、やは彼女はニヤニヤと悪質な笑みを浮かべていた。 殺そうとしているな・・・。 アレさえなければ可愛い良い娘だなで済むのだが・・・。 まぁ人外なんて一筋縄ではいかない奴らばかりだ。 永遠亭で餅をつく様になってから、そんな事にも大分慣れてしまったんだなぁとか、そんな事を考えながら、僕は亡霊のお嬢様がいるであろう白玉楼の門前に辿りついた。 だがここに来て奇妙な違和感がある事に気づく。 おかしい事に、これほど屋敷に近づいても誰も出てくる気配が無い。 と言うのも、ここの庭師は目が悪いのか誰彼構わず近づくものに斬りつける事で有名である。 そんなんで庭師が務まるのかと思うかもしれないが、当然の様に亡霊しかいないので問題ないのだそうだ。 まぁ僕は普通の因幡なので、斬りつけられたら困るのだが。 ともあれ僕は図々しくも門をくぐり、屋敷にお邪魔させていただこうと・・・思った矢先である。 「あら、お客さんかしらぁ~」 ・・・・・・現れた。 その物腰は、それだけで見る者を圧倒させ、視線を受けるだけでも死に至る程の強烈なカリスマを放つ存在。 白玉楼の主にして美しき亡霊の姫。 西行寺 幽々子―――――。 「あなた何屋さん?新聞屋じゃなさそうだけど。」 「いや僕は・・・。」 やっぱり僕の事は覚えていない様だ。 そこまでは予測済みだが、それにしてもいきなり何屋はないだろう。 「亡霊じゃないみたいだけど、そんなナリでここまで来れるなんて、新聞屋くらいしか思いつかないのだけど。」 と彼女が言い切った所で僕はとんだ思い違いをしていた事に気づいた。 見れば一言目から今の間までに完全な程、彼女の間合いに入ってしまっている。 そして彼女の周りから発せられる空気は・・・これは警戒なんてものじゃなかった。 心臓を射抜くような視線、恐ろしいまでの・・・殺気・・・っ!! 流石としか言い様が無かった。 侵入者である僕に一切悟られる事無く、相手が指先一つでも動かせば瞬く間に殺せる位置へ・・・。 いや違う。 これは彼女の死の内側だ。 ここへ足を踏み入れたその瞬間から、僕はいつでも「あっち」へ行ける状態にあったのだ・・・。 流石にこれはまずいっ! このままでいたら彼女から発せられるプレッシャーだけで逝ってしまうっ!! 「あ、あの僕は以前に庭師を・・・」 と必死で自らの命を守ろうと、弁解に全精力を注ごうとしたのだが。 後編へつづく。 射命丸 文 「んー・・・」 私の名前は射命丸 文(しゃめいまる あや)。 この幻想郷で唯一の真実を伝える「文々。新聞(ぶんぶんまるしんぶん)」の執筆者だ。 そんな私が、今日は一体何をしているのかと言うと。 やはり新聞を書いている。 外の時間はすでにお昼を過ぎた辺りだろうか。 そんな事などお構いなし、知った事かとでも言う様に、この部屋の時間は昨夜、時計の針が10時を過ぎた辺りから止まってしまった様だ。 狭い部屋は薄暗い闇に覆われ、執筆用の机に灯された蝋燭の炎は薄気味悪さを手助けしている。 「ぐうぅ・・・・・ぐぐぐ・・・・・ぅっ」 そんな中で唸り声を上げる天狗が一人。 肩まで伸ばした黒髪は微かに栗色を携え、艶やかな光沢を放ちながら清楚な香りを漂わせ、スラリと伸びた手足に引き締まったボディラインはスレンダーな印象を与えるが、しっかりと女体である事を強調する膨らみは多くを魅了する。 つまり私。 まぁ最近ちょっとお風呂にも入ってないし、少しばかり脂ぎってるかもしれないけど、そこは愛嬌なのです。 そんな私が何を唸っているのかと言いますと・・・。 「朝刊が・・・間に合わなかった・・・。」 基本的に「文々。新聞」は購読契約をした方と天狗仲間に幻想郷で起こった事件の真相や、気になる最新情報をお届けするのがその役目である。 つまり、何か事件が起きた時や私が出歩いて気になる出来事を発見しないかぎり、発行される事は無い。 要するに、朝刊である必要は全くないのだ。 では何故朝刊を発行しようと思ったのかと言えば。 「毎朝新聞が来れば、何気なく皆読んでくれると思ったんだけどなぁ~・・・」 と言う訳。 だが実際にはそんなに甘いものではなく、毎朝新聞を発行する事のいかに困難な事か。 ネタはいとも簡単に底を突き、それを補う為に幻想郷中を飛び回る疲労と執筆時間による寝不足で一週間も経たずに心身共々ボロボロである。 自慢の美しい髪と健康的な肌もご覧の通りの有様だし、今朝に至ってはついに朝刊が間に合わなかった。 「ダメだ・・・書けない・・・、ネタが無さすぎるわ・・・」 ちょっと出掛けてこようか。 あまりにも白い原稿から目を背けフラフラと立ち上がり、外界への扉を力無く開け放つと、太陽の眩い光が全身を直撃した。 「ま、まぶしい・・・眠い・・・」 長い間あの部屋に閉じこもっていたせいか、まともに目を開けていられない。 「つ・・・辛いわ・・・・、なんでこんな悪人の様な生活を・・・。」 嘆いてみても始まらない。 辺りのカラスも相づちすら打たぬ正午。 「違うわっ!!こんなの私じゃないっ!! 私は太陽の光を体中に浴びて、美しく羽ばたく正義の美少女天狗なのよーっ!!」 等とハイになったテンションのままに大空へ飛び立つ。 が、疲労の為か速度は見る間に落ち込み、ヘロヘロと風に吹かれる様は天狗と言うよりクラゲに近い。 「と、とりあえず配った朝刊の感想でも伺ってみようかしら・・・」 そうだ、一週間と持たなかった朝刊ではあるが、やはりその反応は気になる。 手始めに、近場の森に住む魔法使いの様子を見に行ってみる事にしよう。 ヘロヘロ。 「あー?朝刊?なんだそれは、新しい魔法か?」 「違いますっ!私が執筆した文々。新聞の・・・毎朝配っていたでしょう?」 「ああ、私は結構忙しいからな、そんな物は見ていないぜ」 「・・・・・・」 薄暗い森の、更に薄暗い場所にある魔法使いの家。 返事が無いので勝手に上がりこむと、そこで私はまず、驚愕の事実に直面した。 なんとこの魔法使いは私が寝ずに書いた新聞を、その存在すら知らぬ内に今日まで過ごしていたと言うのだ。 ゴチャゴチャと散らかった室内を見回してみると、そこかしこに丸められていたり薬剤の下敷きにされていたり、見たことも無い様な柄をしたキノコを包んでいる見慣れた紙束がある。 間違いなく、私の書いた朝刊に他ならなかった。 「こ・・・これはひどいっ!!」 「どうでも良いけど不法侵入だぜ、さっさと出て行ってくれないか?」 「どうでも良くありませんっ!!」 この魔法使いは・・・っ!! 年がら年中部屋に閉じこもって魔法の研究にしか興味を持たないっ!! おまけにこんな、暗くてジメジメした場所でキノコばかりを食べているからっ!! だから頭の中にキノコが生えているに違いないっ!! キノコは正直言いすぎな気もしたが。 でもなんでっ!! なんでこんな場所に住んでいるのに、あなたの髪はそんなに艶々しているのっ?! くやしいっ!人間のくせにっ!! 「そんな事よりもお前、風呂入ってないだろ」 「え?!に、臭いますか?」 魔法使いは一瞬「ん?」と言う顔をしたが、すぐにニヤニヤと笑い出し。 「いやぁ別にぃ、ただなんとなくだな、なんとなく」 き、気味が悪い。 まさか本当に臭うのだろうか。 「お、お風呂くらい入ってますっ!!キノコのくせにバカにしないでくださいっ!!」 あんまり長居すると本当に風呂に入っていないのがバレそうなので、私はさっさとその場を後にした。 ヘロヘロ。 「はぁ~・・・」 まさか一度も読まれていなかっただなんて、ショックを通り越して笑えて・・・こない。 疲れた溜息を吐きながら、またもヘロヘロと次の目的地を目指す。 「そうね、あの魔法使いは頭がキノコだから、しょうがないのかも・・・」 次の人間だか妖怪だかは、ちゃんと読んでくれているに違いない。 信じるのよ文。 「はぁ~・・・」 少女の溜息は、止まらない。 「朝刊?ああ、それなら見たわ、内容は覚えてないけど」 「・・・・・・」 魔法使いと言うのはどいつも頭にキノコが生えているのだろうか。 私が次に向かった場所は、先程のキノコと同様魔法の森に住んでいる魔法使いの館だ。 館内は大量の人形で溢れ、散らかっている印象は無いが足の踏み場も無い。 「読んだのなら覚えていない事はないでしょう、つい先日の事ですよ?」 「見ただけで内容までわかるはずないわ、あたりまえでしょう?」 見るのと読むのとでは訳が違う。 この魔法使いは本当に朝刊を「見た」だけで内容を「読んだ」訳ではないのだ。 「そんな!!それでその朝刊は・・・」 魔法使いに詰め寄ろうとしたその時、ふと館内の壁が目に入った。 壁一面に貼り付けられた、紙で出来た人形の数々。 その姿は藁人形の紙版とでも言おうか、その数も相まって一層不気味さを醸し出している。 「まさか・・・っ!!」 「あっ!ちょっと勝手に上がらないでよっ!!」 魔法使いを押しのけその制止も聞かず、間近で紙人形を見てみるとそれは。 「私の書いた朝刊・・・?」 良く見てみると一体毎に釘が打たれ、それによって壁に磔にされている事がわかる。 腹に打たれるもの、頭に打たれるもの、手足に打たれるもの・・・。 複数個所に打たれている人形もある。 だが人形はしっかりと丁寧に作られており、これがただ単に釘を打つた為に作られたのではないと言う事が容易に解る。 まるで大量処刑の様だ。 「や、やめてくださいよ!私に何か恨みでもあるのですか?!」 「大丈夫よ、だってそれは「あなたが書いた朝刊」であってあなたとは別のものでしょう?あなた自身に影響は無いわ、たぶん。」 「そう言う問題ではありません!まったくもう・・・」 そう言って手早く一体の人形をバラす。 魔法使いは何やら止めようとしていた様だが、これは流石に酷いと思うので全部バラして処分するつもりでいた。 だがその人形の中からハラリと落ちる何かが。 「ん、今のは・・・糸クズ・・・」 ?! 糸クズ等ではない!! まさか・・・。 「か、髪のk・・・」 「どうしたのかしら^^」 間近には満面の笑みでこちらを伺う魔法使いの姿が!! ちょ、直視できないっ!殺す気満々の笑顔だ。 殺気が・・・っ!! なんでもありません失礼します、と私は恐怖に駆られ、さっさとその場を後にしたかったのだが、ここでまたもやあの台詞が。 「ああそうそうあなた、まぁどうでも良いんだけど、お風呂入ってないの?」 「え?!な、なんででしょう、臭いますか・・・?」 「いやそう言う訳じゃないけど、ちゃんとお風呂くらい入らないと身体に悪いし、それこそ臭うわよ」 じゃあね、とそれだけ言うとバタンと扉を閉められてしまった。 こんな森に住んでいるヤツに言われたくは無かったが、文句を言おうにも今一度扉を叩く気にはなれない。 それにしても・・・、何故風呂に入っていないのが解るのだろうか。 臭うわけではなさそうだし・・・そんなに酷い状態では無いと思うのだが・・・。 「一度戻ってお風呂に入ろうかな・・・」 とも思ったが、まぁここまで来たのだから一通り朝刊の感想を聞いてから帰りたい。 そして早く寝たい。 なので先程のキノコ達の反応が気になりつつも、とりあえず感想がもらえそうな場所にだけは寄ってこよう。 ・ ・ ・ ・ 「朝刊ですか・・・まぁ、ここには新聞を読む者がいないので、そもそも皆死んでいますし」 「・・・・・・」 「寧ろそんな時間には寝ていますよ、それよりあなた、お風呂には入らないのですか?」 「?!」 ・ ・ ・ ・ 「朝刊?ああ、それなら見ましたけど?」 「本当ですか!?ど、どうでしたか!!」 「見たけど読んではいませんわ、お嬢様に渡したら捨てられたので処分はしましたが」 「・・・・・・」 「それよりも、あなたはお風呂にも入らずに新聞を作っているの?大変ねぇ・・・」 「?!」 ・ ・ ・ ・ 「朝刊?まぁ起きてきたら読むと思うけど、一応渡しておいたから」 「・・・・・・」 「それより、いくら鴉でも風呂くらい入ったほうが良い、黒猫や狐だって風呂くらい入るものだよ」 「?!」 ・ ・ ・ ・ 「朝刊?ああ、あの新聞紙の事?」 「新聞紙ではなくて新聞です、何度言ったらわかるのですか?」 「どうでもいいわよ、それよりゴミが増えるから勝手に捨てていかないでほしいわ」 「・・・・・・」 「それにさぁ、アンタ風呂とか入らないわけ?天狗は皆不潔なの?」 「?!」 ・ ・ ・ ・ なぜ? 幻想郷は朝刊を必要としていないのか? むしろ文々。新聞は必要とされていないのかしら・・・。 いやそれよりも、どうして皆私に風呂ネタを振ってくるのだろう。 わからない・・・何もわからない・・・。 何処にショックを受けたら良いのか判然としないまま、私は最後に永遠亭までやってきた。 永遠亭は竹林の奥に存在するが故に外の情報は集まり難いのではないか、だとすれば、朝刊だろうと何だろうととりあえず読んではくれるのではないだろうか。 そんな期待もすでに何処かへ行ってしまったが、とりあえず話だけでも聞いてみよう。 実際には朝刊の事よりも風呂について言われる様ならそろそろ理由を聞いてみようと思う。 「すみませーん、どなたかいらっしゃいませんかー?」 「はいはいーああ、新聞屋ですか、どうしました?」 「お風呂――じゃなくて、最近発行した朝刊について、感想が貰えたらと思いまして」 「ああ、それなら師匠が・・・あ、師匠ー」 見ればいかにも新聞を読みそうな薬剤師がこちらに向かってくる所だった。 「どうしたの?精神安定剤ならあるけど、服用するなら一度診察してから・・・」 「なんで精神安定剤なのですか、いやそうじゃなくて私が書いた朝刊なのですが、お読みになられたでしょうか・・・?」 「ええ、読んだわ、いかにも寝不足ですと言わんばかりの紙面が痛々しいばかりで、記事にもなっていなかったけれど」 「そ、そうですか・・・新聞はまぁ良いのですが・・・」 「そうなの?」 「はい、そ、その他には特に何もありませんか?」 「別に、特には無いわよ?だってあなたの方から用事があって来たんじゃないの?」 「そ、そうなのですが、あ、いえ失礼しました」 ペコリとお辞儀をすると、私は逃げる様に竹林へと入っていった。 ・・・・・・風呂について言われなかった。 「うーん・・・」 一体何故・・・、どうして今回は言われなかったのだろうか。 もはや朝刊の事などどうでも良くなり、私の頭は風呂の事で一杯になっている。 これまで風呂について突っ込んできた者達の事を考えても、一向にわからない。 共通項が全く見つからないのだ。 まぁ、私が朝刊を配ったと言う事は共通する事実ではあるのだが・・・。 先程の永遠亭での会話まで合わせると、それ自体は関係ない様に思える。 と、そんな事を考えながら竹林を飛んでいると私を呼ぶ声が。 「あ、新聞屋ー調子はどう?」 「あ、ああ、因幡てゐさん」 そう言えば、私に朝刊のアドバイスをくれたのもこの因幡てゐさんだった。 毎朝配るとかすれば、何気なくみんな読むんじゃね?と言う事だったので、それは良い案ですねと言う具合で今に至る。 「毎朝配ると言うのは意外と甘くなかったです・・・今日は間に合いませんでしたし・・・」 「うんうん」 「いつものペースに戻そうと思っています」 「うんうん、それが良いよ」 「では、帰ってお風呂でも入って寝る事にします」 「うんうんそうだね、じゃあばいばい」 そんな訳で、何故か終始笑顔で答えるてゐさんに違和感を感じつつも、私は自分の作業場へと帰ってきたのだ。 夕焼け空が青みを帯び始め、夜の訪れを告げようとしている。 相変わらず薄暗い自室に腰を落ち着け、このまま眠ってしまえと言う睡魔の誘いについつい身体を任せてしまいそうになる。 が、風呂には入っておきたい。 湯を沸かしながら、今日の事についてしばし考えるが。 「結局何も解りませんでした・・・」 朝刊の感想も、まともなものが聞けなかったし、風呂についてもわからず仕舞い。 釈然としない何かを抱えつつも、私は湯浴みの準備を始めたのだった。 天狗帽を取り、スカートをおろすとお気に入りのドロワーズの紐を緩める。 このドロワーズも自分では気に入っているのだが、いかんせんこのミニスカートに合わせるには無理が出てきた。 そう言ってスカートを長くした事もあったが、あれは動き辛くなって良くない。 湯浴みをする時は決まってそんな事を考えてしまうので、そろそろ別の下着を用意した方が良いのかも。 さして身を入れずにそんな事を考えつつも、下腹部があらわになると寒気が襲ってくるので早いところ湯船に浸かろうとシャツのボタンを手早く外す。 この服装では衣擦れの音が響く様な事は無いが、少女が今まさに裸体を晒そうという場面はなかなか絵になるのではないだろうか。 薄暗い部屋に灯る蝋燭の炎も、引き締まった身体を妖艶に照らし、良い感じにムードを盛り上げているかもしれない。 まぁ自分以外の者がここにいる事はないので、何かのムードが盛り上がる訳はないのだが。 と、不毛な思考を巡らせつつシャツを脱ぎ去ろうとしたその時。 「あら・・・?」 見覚えのない黒い模様が目に入った。 広げてみると、それは堂々と、見事に、容赦なく、あきれんばかりの存在感で。 忌々しく、憎々しく、無慈悲に、恐ろしいほど茶目っ気たっぷりに。 書かれていた。 [みっかぼうず] 「なっ?!」 その瞬間、全ての謎が解けた。 これに気づかないと言う事は、私が服を脱いでいないと言う事!! つまり風呂には入っていないと言う事!! これを見たが故に、奴らは皆同じ反応をしたのだ!! 「一体誰が?!」 そうだ、犯人がいるはず!! こんな悪戯をする犯人が!! 私は風呂に入るのも忘れ他のシャツをひっつかみ、手早く着替えると再び夜の幻想郷へ、音速で飛び立った。 犯人はあの中にいる・・・確実に!! こうして、新聞屋の長い夜はその幕を上げた。 ちなみにこの事件が解決する頃、下着を穿き忘れたのに気づく事になるが、それはまた別のお話。 |
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